昨日は見なかった花が咲き、聞かなかった鳥のさえずりが聞こえる。
そんな日々の変化を丁寧に掬いあげ、感じ取ってきた先人たちの感動は、「二十四節気」や「七十二候」という季節を指し示す言葉に多く残っています。
今回は、春もたけなわとなる「清明(せいめい)」の季節についてご紹介します。
季節の神様事や暮らしのポイントもまとめていますので、ぜひ読んでみてくださいね。
清明とは
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一年を立春・立夏・立秋・立冬を境に4つに分けたものを四季と言い、さらにそれぞれを6つずつに分けたものを二十四節気と言います。
清明は、立春・雨水(うすい)・啓蟄(けいちつ)・春分のあと。
春を表す二十四節気の、5番目にあたります。
それぞれの二十四節気については別の記事がありますので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。
清明は、「清浄明潔(しょうじょうめいけつ)」の略で、すべてのものが清らかで、イキイキとしている春らしい言葉です。
期間としては4月4日~4月18日頃まで。
「せいめい」というその音にふさわしく、生命力あふれるこの季節には、様々な神様事が重なっているのも象徴的です。
清明の三候
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七十二候では、二十四節気をさらに3つの候に分け、約5日ごとの季節の移ろいを表しています。
古来から現在に至るまで、草花や動物たちは、私たちに自然と調和する喜びを教えてくれているのでしょう。
初候:玄鳥至(つばめきたる)
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4月4日~4月8日頃の候です。
冬の間、東南アジアなどの暖かい国で過ごしていたツバメは、春になると海を渡り、繁殖のために日本へやってきます。
昔からツバメが巣を作ると、その家には幸福がもたらされるなどと言われ、人々に親しまれてきました。
丁寧に作りあげられるツバメの巣は、残っていれば次の年も修復して使えるほど耐久性に優れているのだとか。
ツバメがやってきたのを見て、人々も土壁の修繕を行う目安にしたという内容が、古い中国の書物に書かれていることからも、ツバメと人間の共生ぶりが伺えます。
また、玄鳥とは黒い鳥という意味。
青みがかった黒いツヤを持つツバメの羽を絶妙に捉えた言葉でしょう。
次候:鴻雁北(こうがんかえる)
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4月9日~4月13日頃の候です。
ツバメとは反対に、秋に日本へやってきて、春に旅立っていくのが雁という鳥類です。
鴻は大型のものを、雁は小型のものを言い、「落雁(らくがん)」や「かりがね」といった和菓子やお茶の名前にもなるほど、日本人にとって馴染みの深い鳥となっています。
近年では温暖化の影響もあり、秋は遅くやってきて、春は早く出立の日を迎えると言い、日本の滞在期間は短くなっているそう。
実際に4月頃に北へ渡るのはカモ類など、雁ではない鳥類というのが現在の自然界の移ろいになっています。
詩歌にも、「花を待たず」「花を見捨てて」と書かれる雁は、今ではさらに早く、花のつぼみが膨らみ頃にはもう、シベリアなどの北国へ向かって飛び立っていくのでしょう。
末候:虹始見(にじはじめてあらわる)
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4月14日~4月18日頃の候です。
空気の乾燥している冬場には、虹はあまり見られません。
次第に空気中の湿度が高まり、今年初めての虹が出始めるのがこの頃と言われています。
それはつまり、春という季節から、初夏・梅雨という季節へと少しずつ変わっていくことを予期させるものでもあります。
昔の人々は虹が現れたことを雨の近い印と喜ぶと同時に、春の終わりが近付くことを名残惜しく感じたのではないでしょうか。
暮らしのポイント
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中国では、茶葉の摘まれた時期によって、お茶の名前が変わります。
春分(3月20日頃)よりも前に摘まれた茶葉を「分前茶(ぶんぜんちゃ)」と呼び、清明(4月4日頃)よりも前に摘まれた茶葉は「明前茶(めいぜんちゃ)」、清明の頃に摘まれた茶葉は「雨前茶(うぜんちゃ)」と言います。
新茶は毎年楽しみなものですが、茶摘み体験など、自分で摘んだお茶を飲むという経験もまた貴重なものになるでしょう。
今年はお茶の葉の摘まれた時期に着目してみてはいかがでしょうか。
季節の神様事
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清明の時期には、不思議と神様事が多いように感じます。
一つ目は4月8日の花祭り。
灌仏会と呼ばれるこの日は、仏教の開祖である釈迦の誕生を祝う日とされています。
各地の寺院で特別な法要や華やかな花御堂の設置、甘茶の振る舞いなどが行われます。
二つ目は4月9日のイースター。
キリスト教の開祖であるイエス・キリストの復活を祝う日とされています。
イースターは「春分の日のあとの、最初の満月の次の日曜日」となっており、2023年では4月9日に当たります。
また、当日の40日前から50日後までの90日間がお祝い期間と言われたり、宗派によって日付が異なるとも。
有名なイースターエッグは、生命の誕生を象徴するとされ、縁起の良いものです。
三つ目は、沖縄で行われる先祖供養のための清明祭(シーミー)です。
中国からもたらされた風習ですが、たくさんの料理や花を供え、歌い踊る沖縄らしい行事。
日本には、ご先祖様は家族を守る神様になるという考えがあり、これも立派な神様事と言えます。
宗教・宗派は違っても、神を思い、家族やご先祖様を思う気持ちは変わりません。
自分という存在は、生命が受け継がれるという奇跡の積み重ねの末にあるものです。
清明のこの季節は、お気に入りの寺社仏閣やお墓参りに出かけてみてはいかがでしょうか。
まとめ
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今回は二十四節気の清明にあたる3つの候をご紹介しました。
いつの間にか春は盛りを過ぎ、少しずつ晩春の気配が濃くなりはじめています。
やってくる者もいれば、去っていく者もいる。
「せいめい」の季節には、生命の移り変わりや、繋がれてきた命の歴史、その尊さを感じ取ることができます。
今年もまた終わりゆく春に、感謝や祈りの気持ちを持ちつつ、今在る春の喜びを味わいつくしていきましょう!