梅の実が少しずつ色付いていく、入梅の時期になりました。
じめじめと重い天候が続くこともありますが、そんな中でこそ生まれる尊い命もあるのだと、暦から気付かされます。
さて、今回取り上げるのは「芒種(ぼうしゅ)」という季節です。
人生を豊かにする季節のお話や、暮らしの知恵も集めましたので、ぜひ参考にしてみてください。
芒種とは
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「芒種」は、二十四節気において「夏至」の一つ前に当たる季節。
太陽の出ている時間がどんどん長くなっていく季節でもあります。
「芒種」の「芒」とは、稲や麦の穂先に付いた、鋭い針のようなもののことで、この漢字は「のぎ」とも「すすき」とも読みます。
芒(のぎ)の付いた植物の種子を蒔く時期が「芒種」。
実際には田植えの時期ですので、種蒔きではなく、苗を田んぼに定植させる時期になりそうです。
芒種の三候
いよいよ梅雨入りとなるこの頃。
昔の人々が農事や暮らしの中で感じた季節の移ろいには、身の回りの出来事に「恵み」を見いだすヒントがありそうです。
初候:蟷螂生(かまきりしょうず)
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6月5日~6月9日頃の候です。
秋に産みつけられた卵から、カマキリが生まれる季節がやってきました。
生まれた時には1cmにも満たないカマキリ。
数百もの兄弟が共に生まれ、その中で大人になれるのは、ほんの2~3匹程度なのだとか。
肉食の昆虫であるカマキリは作物を食べることなく、虫たちを食べてくれることから、農家にとっては益虫として親しまれてきました。
また、鎌を持ちあげる様子が祈っている姿に見えることから、「拝み虫」の異名も。
海外でも、「予言者」や「僧侶」の意味を持つ名前が付いているのだそうです。
次候:腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
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6月10日~6月15日頃の候です。
蛍が飛び交う頃になりました。
暑さに蒸れて腐った水辺の草や竹の根が、蛍に生まれ変わると信じていたという、昔の人々の創造的な思想が現れた七十二候です。
一年近くを水中と地中で暮らし、生涯の最後のおよそ一週間を、発光しながら飛び回るという蛍の一生。
外敵に見つからないよう、夜間だけ活動しつつも、パートナーを見つけるために光るという、儚くも美しい命の輝きに「生まれ変わり」を想起したというのも、無理はないように思われます。
この時期はベルフラワーと呼ばれる「ホタルブクロ」の開花期でもあります。
鐘(ベル)状の花にホタルを閉じ込めると、明かりが透けてみえるという由来からも、日本人がどんなにか蛍と親しんできたかが分かります。
とはいえ、実は蛍は光を嫌う性質があるということも分かってきていますので、蛍観賞の時は、暗がりでそっと見守るようにするのが良さそうです。
末候:梅子黄(うめのみきばむ)
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6月16日~6月20日頃の候です。
梅の実が青く若いものから次第に熟し、黄色く色付く季節になってきました。
「梅雨」の漢字は、梅の実が熟す頃に降る雨というところから当てたという説が有力なほど、梅と雨は切っても切れない縁がありそう。
雨の多い季節は日照時間が少なく、陽のエネルギーが少なくなりがちです。
天日干しにし、太陽のエネルギーをたくさん蓄えた乾物類を食べると陽の気が補えると考えられています。
梅雨が明ければ勢い盛んな夏野菜がたくさん採れ始めますから、季節ごとの食事を楽しむヒントになれば幸いです。
季節のお話
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古くから芸事の世界で言われてきたことではありますが、「習い事を始めるなら、6歳の6月6日から」と聞いたことはありませんか。
1、2、3……と指折り数えて、6で小指が立つことから、「子が立つ=自立する」に通ずるという縁担ぎですが、実際そのくらいの年頃は、自分で何かやりたいことを一つ決めてみるのに良い頃合いでもあります。
大人に与えられるのでなく、本人の気質に合ったものや、心の向くものを自分から選び取れば、それが仕事に繋がるかどうかは別として、一生続けられる趣味になったり、人格を作るうえで大きな礎になることもあるでしょう。
子どもの話か、と思われる方もいるかもしれませんが、大人になってからでも、損得を考えず、自分がやってみたいと思うことに挑戦することは精神的成長をもたらします。
大人になると、指摘されることが嫌になったり、そもそも指摘してもらえる機会が減ってしまいがちです。
あえてゼロからスタートできることを、6月6日から始めてみるのも良いのではないでしょうか。
暮らしの知恵
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梅雨の時期の暮らしの知恵といえば、やはり梅仕事でしょう。
梅シロップや梅酒には熟す前の青梅を、梅干しや梅酢には少し熟し始めた梅を、梅ジャムには完熟梅を使います。
少しずつ時期の異なる梅を長く楽しめる梅仕事、今年はどれか一つ、着手してみてはいかがでしょうか。
いくつかの梅仕事レシピを別記事に掲載していますので、コチラも参考にしてみてくださいね。
薬膳的視点から見ても、梅は湿邪で弱った胃腸を回復してくれ、食欲不振や渇き、下痢といった症状の改善も期待できるスーパーフードです。
梅に含まれるクエン酸が疲労回復のサポートもしてくれますので、夏バテ対策に、梅シロップや梅干しを仕込んでおくのも良さそうです。
まとめ
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今回は二十四節気の芒種にあたる3つの候をご紹介しました。
夏至はもうすぐそこまで来ていますが、実際の天気はぐずついており、暑さよりも湿度の高さ、日の長さよりも雨雲による暗さに目が行きやすい季節。
ですが、着実に陽の気は極まりつつあるのだと、輝く生命に感じてみてほしいと思います。
心身の疲れを感じた時には、疲労回復を助けてくれる食材に頼ったり、動植物に触れ合って、ポジティブなエネルギーに転換できれば、より良い時間を多く持つことができるのではないでしょうか。