桜が散り、新緑の季節が近付いてきました。
長い冬が終わったと思ったら、春は駆け足で過ぎていくような気がします。
早いようで短い季節の移ろいを、先人たちは「二十四節気」や「七十二候」として残してきました。
忙しいなかにも四季折々の自然を感じ、暦に沿って生きる。
そんな生き方に憧れる人も多いのではないでしょうか。
今回は「穀雨(こくう)」の季節についてご紹介します。
季節のお話も2つご用意しましたので、ぜひお読みください。
穀雨とは
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四季 | 二十四節気 | 三候 | 七十二候 |
春 | 立春 | 初候 | 東風解凍(はるかぜこおりをとく) |
次候 | 黄鶯睍睆(うぐいすなく) | ||
末候 | 魚上氷(うおこおりをいずる) | ||
雨水 | 初候 | 土脉潤起(つちのしょううるおいおこる) | |
次候 | 霞始靆(かすみはじめてたなびく) | ||
末候 | 草木萌動(そうもくめばえいずる) | ||
啓蟄 | 初候 | 蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく) | |
次候 | 桃始笑(ももはじめてさく) | ||
末候 | 菜虫化蝶(なむしちょうとなる) | ||
春分 | 初候 | 雀始巣(すずめはじめてすくう) | |
次候 | 桜始開(さくらはじめてひらく) | ||
末候 | 雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす) | ||
清明 | 初候 | 玄鳥至(つばめきたる) | |
次候 | 鴻雁北(こうがんかえる) | ||
末候 | 虹始見(にじはじめてあらわる) | ||
穀雨 | 初候 | 葭始生(あしはじめてしょうず) | |
次候 | 霜止出苗(しもやみてなえいずる) | ||
末候 | 牡丹華(ぼたんはなさく) |
立春・雨水(うすい)・啓蟄(けいちつ)・春分・清明(せいめい)の5つの二十四節気が過ぎ、6番目となるのが「穀雨」という季節です。
表からも分かるように、一年を4つに分けたものが四季、それをさらに6つに分けたものが二十四節気、二十四節気をさらに3つに分けると七十二候となります。
穀雨は、「春」の最後の季節。
字の通り、たくさんの穀物を潤す雨が降る季節を指し示しています。
初夏の訪れも近い穀雨の期間は、4月19日~5月4日頃まで。
これまでの季節については各記事をご覧ください。
穀雨の三候
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七十二候はおよそ5日ごとの、きめ細やかな季節の移ろいを表しています。
自然の中に現れる季節を感じてみましょう。
初候:葭始生(あしはじめてしょうず)
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4月19日~4月24日頃の候です。
野山を駆け巡った春が、水辺にまでやってきました。
葭/葦(あし)は、日本を「豊葦原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに)」と呼ぶように、古くから日本にとって欠かせない植物でした。
川辺に降りると鋭く伸びる葦の若芽を見つけることもできるでしょう。
夏に背を伸ばし、秋に金色の穂をなびかせる葦は、屋根やすだれなどに活用されています。
また、日本では言葉には魂が宿ると考える「言霊思想」があります。
「あし」という言葉が「悪し」に通ずるということから、「葦」と書いて「よし」とも読ませることも。
次候:霜止出苗(しもやみてなえいずる)
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4月25日~4月29日頃の候です。
夜間に冷え込むことも少なくなり、霜が降りなくなる頃です。
稲の苗がすくすくと育ち始め、田植えに向けてにわかに忙しくなる時期でもあります。
精米されたお米しか食べたことがない人にとっては、稲の種と聞いてもピンと来ないかもしれません。
お米の実には「もみ」と呼ばれる殻が付いており、その殻を剥いたものを玄米、玄米からさらに「ぬか」などを取り除いたものを白米と呼んでいます。
稲は意外にバケツで簡単に育てられるので、興味のある方はぜひ、お米ができるまでを体験してみるのも面白いかもしれません。
末候:牡丹華(ぼたんはなさく)
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4月30日~5月4日頃の候です。
牡丹という花は、直径10~20センチ、色は白や紅色・紫などがあります。
甘く上品な香りも相まって、中国では「百花王」「花神」などと愛でられてきました。
花言葉は「王者の風格」。
華やかな存在感のある牡丹は絵画や着物のモチーフとして日本でも親しまれています。
与謝蕪村は牡丹をモチーフにした俳句をいくつも残していますが、なかでも「牡丹散つてうちかさなりぬ二三片」は有名な句。
華やかなものにも終わりはあるという無常観、もののあわれを感じます。
いつまでも同じ季節ではないからこそ、花の散る姿まで尊ぶ心を持ちたいものですね。
季節のお話
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雨というと梅雨や秋雨のイメージが強いかもしれませんが、春に降る雨は、日本人にとって恵みそのものでした。
その喜びは、「穀雨」という言葉に込められているようにも感じます。
雪を解かす「雪解雨(ゆきげう)」に始まり、菜の花が咲く頃の「菜種梅雨(なたねつゆ)」、穀物を育ててくれる「瑞雨(ずいう)」、草木を潤す「甘雨(かんう)」、春の長雨は「春霖(しゅんりん)」、開花を促す「養花雨(ようかう)」など、春の雨には多くの呼び名が付いています。
雨が降ると気持ちが落ち込む方もいるかもしれませんが、「この雨は何という名前がふさわしいだろう?」と考えてみると、ネガティブな気持ちが少し和らぐかもしれません。
季節のお話2
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八十八夜というと、お茶摘みの歌が有名です。
ですが、「八十八」を組み合わせると「米」となるように、お茶だけでなく様々な農事に関わっている言葉が「八十八夜」です。
ちなみに八十八夜とは、立春から数えて88日目のこと。
毎年5月1日か5月2日に当たります。
初夏も近付くこの頃、不意に遅霜が降りることがあり、「八十八夜の忘れ霜」などと呼ばれます。
一度でも霜に当たるとダメになってしまう作物もあるため、八十八夜の頃は遅霜による冷害を防ぐためにも重要な指標なのでしょう。
まとめ
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今回は二十四節気の穀雨にあたる3つの候をご紹介しました。
チューリップが咲き乱れ、タケノコがにょきにょきと伸び、草餅や新茶にも出会うこの時期は、歩いているだけでどこかに春を見つけられます。
そして、爛漫の春が過ぎれば、今度は新緑が爽やかに目を癒す初夏が訪れます。
何かの終わりは、何かの始まり。
今年はどんな春を過ごしたか、これからどんな夏を過ごしたいか。
自分の「今」に心を寄せる時間を持つのもおすすめの、穀雨です。