鮮やかな色の花が咲き乱れ、新緑も次第に色濃くなる夏が、盛りに向かってまっしぐらに成長を続けています。
今回取り上げるのは「小満」という季節。
「満ちる」という字がぴったりの三候がめぐってきました。
季節のお話・季節の薬膳も紹介していますので、ぜひ読んでみてくださいね。
小満とは
出典:photoAC
二十四節気において、夏の始まりである「立夏」の次にやってくるのが「小満」の季節です。
日の光が強くなり、あらゆる生命が成長し、陽気が満ち満ちていく頃を表しています。
麦の穂が大きく実り、植物だけでなく、鳥も、虫も、獣も、もちろん人間も、命が照り輝いています。
田植えやその準備も始まるこの頃には、「走り梅雨」や「梅雨の走り」といって、ぐずついた天候が見られることも。
その後には晴天が続き、それから本格的な梅雨に入るのが通例と言われています。
小満の三候
出典:photoAC
春が終わりを告げると、今度は梅雨の雨音が近付いてきます。
束の間とも言える初夏を楽しみたい「小満」には、どのような三候があるのでしょうか。
初候:蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)
出典:photoAC
5月20日~5月25日頃の候です。
日本では戦前まで、絹糸を取るための養蚕が盛んに行われていました。
ちょうどこの頃は旧暦の4月(卯月)に当たりますが、「木の葉採り月」という異名も。
この「木の葉」というのは、桑の葉のことを指しています。
脱皮と休眠を繰り返しながら成長する蚕は、四度目の眠りから覚めると、繭ごもりのために昼夜問わず、桑の葉を食べ続けるのだと言います。
新鮮な桑の葉でなければ食べない蚕のお世話と田んぼの準備で、当時の農家は大忙しだったのではないでしょうか。
蚕が桑の葉を食べるときには、小雨が降るような心地よい音がするそうで、「蚕時雨(こしぐれ)」という言葉もあります。
江戸中期の俳人である召波は、「月更けて桑に音ある蚕かな」と俳句に残しています。
次候:紅花栄(べにばなさかう)
出典:photoAC
5月26日~5月30日頃の候です。
アザミにも似たこの花の開花時期は、本当はもう少し遅いのですが、七十二候ではこの頃が、紅花が一面に咲く頃、とされています。
咲き始めには黄色く、次第に赤く染まるこの花は、「末摘花」とも呼ばれています。
末摘花というと、源氏物語にも同じ名を持つ女性が出てきますが、その女性の「鼻が赤い」ことと、紅花の「花が赤い」ことをかけて源氏が名付けたのが「末摘花」というあだ名でした。
まるで摘まれることを嫌がるように、花の付け根には鋭いトゲがあり、朝露でトゲが柔らかい早朝に花を摘んだのだとか。
口紅や頬紅として、また染料としても使われてきましたが、花摘みをする農家の娘が身に着けることは叶わないような高級品でもありました。
紅花には魔よけの効果があると昔から言われてきましたが、最近の研究では、血行促進や女性のさまざまな不調にも良いとされています。
末候:麦秋至(むぎのときいたる)
出典:photoAC
5月31日~6月4日頃の候です。
麦にとっての秋(収穫期)がやってきました。
新緑のこの頃、金色の穂を揺らす麦は目に鮮やかに映ります。
雨の少なく乾燥した季節でありながらも、梅雨はもう目前に迫り、この時期に降る雨は「麦雨(ばくう)」と呼ばれる一方で、刈り取りに影響が出る「麦食らい」と呼ばれることもありました。
麦飯、麦茶、麦みそなど、昔から日本人の食を支えてきた穀物です。
さらに、穂を刈り取ったあとのわらも活用されるなど、農事だけでなく生活にも、なくてはならない重要な植物と言えるでしょう。
季節のお話
出典:photoAC
一般的には、6月1日は夏の衣替えの日とされています。
それまでは合服などを推奨している学校でも、この日から夏服が解禁になるなど、服装でも季節の移ろいを顕著に感じる頃でしょう。
服というと、着物にも季節があります。
裏地がなく、夏の着物と考えられている「単衣(ひとえ)」は、6月からの着用を推奨と長らく言われてきましたが、近年は気候変動の影響もあり、5月から着ても良いのではないか、という論調も強まってきています。
フォーマルな場ではある程度の節度が求められるでしょうが、伝統を重んじるだけでなく、カジュアルな着こなしを楽しんだり、快適さを重視したりと、自分の好きな衣服を身にまとう喜びを感じるのにも良い季節でしょう。
穴の開いたものや、傷みの激しいものを捨てれば、空間に空白ができ、そこに新たな良い気が入ってくるとも言われます。
面倒と思われがちな衣替えですが、開運アクションにもつながると考えれば、ウキウキした気持ちで取りかかれそうです。
季節の薬膳
出典:photoAC
梅雨入りが近くなると、少しずつ気になるのが「湿邪」という悪い気です。
体が重だるい感じがしたり、気持ちの面で鬱屈としたり、むくみがいつもより気になったりといった症状がある方は、「湿邪」による不調かもしれません。
火照りやイライラ、食欲不振などの症状が出ているときは、キウイがおすすめ。サラダやマリネで食べるのも良いでしょう。
むくみが気になる方は、旬の食材でもあるソラマメを取り入れてみてください。
不要な水分の排出に役立つソラマメは、莢ごと焼いても良し、お肉と炒めても良し、新玉ねぎなど旬の野菜とかき揚げにしても良しと、初夏を楽しむ食材です。
まとめ
出典:photoAC
今回は二十四節気の小満にあたる3つの候をご紹介しました。
夏至に向かって陽の気が満ちていくこの季節は、何もしていなくてもエネルギーが過剰になってしまいがち。
手放すことや、余分を流しだすことに着目してみると、心が整い、穏やかな初夏を過ごせそうです。