亡くなった方との交信をする「イタコ」とは

亡くなった方との交信をする「イタコ」とは

 仕事に忙殺されていた頃、呼び鈴に応じてドアを開けると女性が二人立っており、「こんばんは。亡くなった方に会いたい、お話したいと思いませんか?」と言われました。
「いえ、生きている人間の相手で手一杯なので結構です」とその時は断ったのですが、“会いたいといえば、死んだ祖父とはもっと話したかった”と感じていました。

しかし、自分は霊感もなければ、そんな能力もあるはずない。
やっぱり死んだ人と話すなんて無理に決まっている。
でも話すことができたならば、言いたいことがいろいろとあります。

私だけでなく、どなたも一度は、亡くなってしまった方とお話ししたいと思ったこともあるのではないでしょうか。
そんな気持ちに応えてくれる方々の存在を、ご紹介したいと思います。

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このページでわかること

イタコとは

イタコ

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 週刊少年ジャンプで連載、一世を風靡した漫画『シャーマンキング』。
そのヒロインである『恐山(きょうやま)アンナ』はイタコとして登場し、これをきっかけにイタコの存在を知ったという若い世代も少なくないと思います。

このヒロインの苗字に用いられている『恐山(きょうやま)』とは、青森県にある日本最大の霊山です。
恐山の夏と秋に行われる大祭典の時、イタコはこの山に現れ、集い、「口寄せ」を行うそうです。
昭和初期からこういった風習が始まり、有名になったことで恐山といえば「イタコ」という認識が広まったようです。

 「イタコ」とは一体どんな存在なのか。
全国的に存在していますが、「青森県」のイタコが特に有名です。
青森県内に明治の初めには300人前後いたと言われる一方で、現在は減少の一途を辿っています。

高齢化が進み、最年少、そして「最後のイタコ」と称される41歳の松田さんは、エッセイ本も出版しています。
イタコは、生まれつき「盲目」の女性がなる職業だと言われています。
盲目でなくても、過酷な修業を終えてイタコとなる人もいます。

『盲目の女性』が主というその背景には、障害を持つ娘を養うことができない貧しい生活で、将来嫁ぐ可能性も低い彼女たちの「 口減らし」として「イタコ修業」に出されていたという、なんとも世知辛い物語があるのです。

イタコの修業は想像を絶するものだと言われ、口減らしとしての機能を果たしていたといえます。
親として育てることも、もちろん殺すこともできない場合には、こうした措置をとることは珍しくなかったようです。

 彼女たちの代表的な仕事は、「死者の魂」を呼び寄せ、生者との仲介役をする「口寄せ」です。
いくつかある「口寄せ」の種類の中の、「仏口(ホトクチ)」がこれに当たります。

「口寄せ」には他にも、「未来予知」、「心情透視」を行うために様々な方法を用います。
死者の言葉を伝えるだけではなく、その魂を自らの体に「憑依(降霊術) 」させるという方法もあります。

ベテランのイタコともなると、その術の完成度には目を見張るものがあります。
彼女たちの行う「口寄せ」は、死者の魂だけでなく、今生きている人間の魂をも呼び寄せ、憑依させることも可能だというところです。

声や口調、口癖など目の情報がなければ本人と思わせるほどの術で、希望や隠し事などを暴くといったこともできるというのですから、驚きです。

「口寄せ」の料金は10分で3,000円程度、恐山の大祭典(四日間)には尋常ではない数の人が、彼女たちの元を訪れるということで、換算すると平均年収は1,000万円程度ではないかという推測もあります。なんとも高給取りな職業に聞こえますが、イタコとしての道は、決して安易なものなどではなく、生死を賭けた戦いだと言えます。

 イタコの修業の中身は、本質的に口減らしの要素を含みます。
そのためにこれまで、数多くの盲目の女性が命を落としてきた歴史があります。

修業を始めるには、まずベテランのイタコの元へ弟子入りし、住み込みで、日中は家事や炊事、雑用に追われながらも働き、朝と夜に払いの文言、祭文、イタコ歌などを覚えていきます。

並行して、占い、祈祷、霊媒の手法といった技術も習得していきます。
これらすべてをマスターするのに、早くても2年、平均して5年はかかると言われます。

この時点で、かなり過酷だと思われますが、こんなことでは終わりません。

「通過儀礼」と呼ばれる作業をしなければ、イタコにはなれないのですが、極寒の中、水で体を清める、穀物や塩を断つ、小屋に籠り、祭文などを唱え続けるといった方法を用います。

これは“気を失うまで”続行されるもので、昏倒することが条件で、この時に「神の名」を聞けなければ一人前になれないそうです。
盲目であるがゆえに、口減らしのために修業に出すしかないという昔の状況とは異なり、障害を持つ人々への支援が豊になってきた現代では、自らイタコになろうとする人はそういないでしょう。

まとめ

イタコ

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 貧しい家庭に、盲目という障害を持って生まれてしまった少女たちの流れ着く唯一の居場所に「イタコ」という職業であったわけです。

先天的に「神の声が聞こえた」「死者の魂と通じていた」といった特別な能力を保持していたわけではありません。

彼女たち自身が生死の世界を彷徨い、過酷な修業を潜り抜けて「聞こえるようになった」のです。

熟練のイタコが見せる、奇跡の「口寄せ(降霊術)」を一度はお目にかかりたいものです。